口紅
「……顔色悪いアルヨ? 大丈夫カ?」
「え?」
いつものように公園で待ち合わせ、やってきた神楽ちゃんに顔をのぞき込まれる。その顔は心配そうで、私はいやいやと手を振った。
「全然元気だよ! 朝ごはんいっぱい食べたし」
「そうアルカ、ならいいけど」
とりあえず酢昆布買いに行くネ、と歩き出した神楽ちゃんと、並んで歩く。たぶん顔色が悪く見えるのは、唇が青いからだ。母さんから貧血気味なのね、と言われたこともある。こうして元気なのに心配されるのも悪い気がして、どうにかしないとなあとぼんやり思った。
夕焼けが遊具を照らし、カラスの鳴き声が遠くに聞こえる。
神楽ちゃんと別れたあと、公園のベンチで手鏡を取り出し、自分の顔を見つめる。顔色が悪いのは色白な方ということもあるけれど、やっぱり唇が問題な気がする。どうしたらいいのかな。母さんに相談してみようかな。
「……ここで何をしている?」
「!」
ぱっと顔をあげると桂さんが立っていた。珍しくエリザベスを連れていない。
「何か悩みでもあるのか?」
桂さんは私の隣に腰を下ろした。攘夷志士をしているからか、人の機微に敏感なようだ。私は話してみることにした。
「――こういうわけで、顔色を良くするにはどうしたらいいですか?」
桂さんはふっと笑って、「これで解決できるぞ」と袖口から何かを取り出した。短いスティック状のものだ。母さんが持っているのを見たことがある。
「……口紅?」
「そうだ。これを塗れば誰でも顔色が良くなる」
なるほど。さすがは桂さんだ。女装をしているだけある。
心の中で賞賛していると、桂さんはそれを繰り出し、こちらを向いた。
「どれ、塗ってあげよう」
「えっ」
いいです、と言おうとしたけれど、その前に顎を掴まれてしまった。その感触が思いのほか優しく、私は口を閉じた。
口紅が唇をなぞっていく。桂さんとの距離は近く、伏し目をした睫毛の長さや整った鼻すじがよくわかった。ああ、桂さんってこんなに綺麗な顔をしていたのだと改めて思うと同時に、そんなかっこいい桂さんに、顎をそっと掴まれて口紅を塗られているという、この状況に心臓がばくばくと音を立てていく。なに、これ。なんなの、これ。私、どうしたんだろう。
「……できた、口をんぱっとしてみろ」
桂さんは顎から手を離して言った。私は言われた通り、口をんぱっと閉じて開けた。
「うむ、いいな……だいぶ血色がよくなった。鏡で見てみるといい」
手鏡で顔を覗き込む。唇に綺麗なピンクがのって、とても顔色がよく見えた。
「ドラッグストアとかに売ってるから、小遣いをもらって、自分で好きな色を買いなさい……ではまたな、早く帰るんだぞ」
桂さんはそう言って去っていった。私は桂さんの後ろ姿をぼんやりと見つめた。
違うんです、桂さん。血色がよくなったのは、口紅のおかげだけじゃなくて、顔に熱が集まったからです。なんて、桂さんには絶対に言えない。