プリンの変化

私の結婚相手はどんな人なのだろう。幼い頃はわくわくと想像を膨らませていたものだった。
「次はヴィンスモーク家だよ、プリン。いつも通り上手くやってくれ、期待してるよ!」
「楽勝よ、ママ」
あの頃の自分はもういない。私は愛されることはないと気づいてしまったから。この忌まわしい目を持っている限り、誰にも愛されない。この目が唯一役に立つのは、男を殺す時だけだ。
最初に銃を渡された時は戸惑ったものの、ママのためならやるしかなかった。ママにさえ見放されることがこわかった。私は怯んだ男に銃口を向け、引き金を引いた。途端に赤い血が飛び散り、ウエディングドレスにも付着する。
――なんだ、これで終わりか。
あまりの呆気なさに罪悪感も湧かなかった。手を汚したことにも、なんとも思わなかった。私は醜い化け物だから、人殺しも当然のように思えた。
それからママの依頼で、幾度となく茶番は繰り返された。目を隠せば普通の容姿をしているので、男たちはころりと騙された。そして今回も、どうせ汚れてしまう綺麗なドレスに袖を通して、大掛かりな結婚式に参加している。
『マリアージュ・デ・レゾン!!! 二人が結ばれることでまた一つ!! 世界に悪の華が狂い咲くのだ!! 喝采をォ!! めまいがする程美しき今日に!!!』
ママのペット、ゼウスの上に今回のターゲット、サンジと並ぶ。そっと腕を絡めれば、このエロガッパは案の定でれでれと鼻の下を伸ばした。
「サンジさん……私、幸せ」
「プ……プリンちゃん おれ……おれもだよ!!」
下から現れた巨大なウエディングケーキの上へ、ゼウスが移動する。何度も見た誓いの祭壇だ。
「素敵 甘いケーキが誓いの祭壇だなんて」
「えへへ、キミの方がステキさ」
「やだもう、サンジさんったら」と返しながら、早く死ねと心の内で思う。私のことを何も知らないくせに。私を知ったら、素敵だなんて思わないくせに。
祭壇に立ち、サンジと向き合いながら神父の言葉を聞く。
「――ではベールを上げて誓いのキスを」
私はそっと屈んだ。腰のリボンに差してある銃の感覚を感じながら。
「ベールを上げるよ……」
「……ええ」
ベールで隠していた第三の目が、サンジを捉える。サンジはやはり怯んだ。私はいつも通り銃を取り出そうとした。その時だった。
「なんて……美しい瞳だ……」
「え?」
思いがけない言葉に、いつの間にか涙が流れていた。
「あ、ご……ごめん、近くで見たらつい、見惚れて……」
狼狽えるサンジの声が聞こえる。私は耐えきれず床に膝をついた。ふざけるな。この目を美しいなんて言った奴は、たった一度もいない。ママにも気味が悪いと言われ、町に出れば怪物と言われた私の目を。
「プリンちゃん」
「フザけんな!! 殺すんだ、私は……お前を!!」
涙は止まらなかった。いつの間にか私はサンジに抱えられ、ケーキから地上に下ろされていた。こんなことがあってはならない。なんとか任務を遂行しようと、サンジに発砲するもすべて避けられた。
「見ろ、これが私の本性だ!! ショックだろ!? 幻滅したろう!? 安心しろよ、お前はもう死ぬ!! そうやって私は何人もダマしてきたんだ!!」
「自分のこともか? プリンちゃん」
サンジの言葉は私の胸に刺さった。再び目が潤む。何なんだ、こいつは。どうして私の心をこうも揺さぶるのか。
「う、うるせェ!! てめェなんかに……!!」
私の気持ちがわかるもんか。銃を向ける。仕留めないといかないのに、かたかたと手が震える。なぜ震える? いつも通り撃つだけだ。それなのに、なぜ私はこいつを撃てないのか。まさか私は、こいつを生かしたいと思っている?
「どいてろプリン!!」
「きゃあ」
ドゴン、と衝撃が走った。
「ダイフク兄さん!!」
「しくじりやがって役立たずが!! こいつが死ななきゃ始まらねェんだ!!」
「待って、私が必ず!!」
兄さんを止めようとするも、「あの一瞬でやれなかったお前にはもう無理だ!!」と弾き飛ばされてしまった。
もう私の出る幕はなかった。サンジを助けに来た麦わらの一味が、ママの大事にしているマザーカルメルの写真を割って大騒動になり、ホールケーキ城は崩落した。ママはウエディングケーキの食いわずらいを起こして一味の方へ去っていき、兄弟たちは島の滅亡を心配した。
ラビヤンに乗りながら、私は別のことを心配していた。どうしてそれを心配するのか、自分でもわからなかった。ただ、サンジがママに殺されることを考えると、どうしようもなく心がかき乱された。自分の手で殺せなかったからか――いや、違う。
誰かに生きて欲しいと願う、こんな感情は初めてだった。サンジを思い、ぎゅっと締め付けられる胸も、悪いものではなかった。自分の中にそんな感情があることに驚きつつ、私は冷静に、兄弟たちに向かって声を張り上げた。
「私が助けてあげようか!?」