ハッピーバレンタイン

いよいよ「その時」は近づいてきていた。二月。年頃の男女が色めく季節――そう、バレンタインが近づいてきていた。プリンは今まで馬鹿げた行事と思っていたが、今年は違った。三年のサンジと出会ってしまったからだ。
――ここはクリオロで香りとコクを出したいけど、ママからのお小遣いでは到底手が届かないわ。無難にフォアステロをベースにしてトリニタリオを入れるか……。ああ、でもフローラルさも入れたい!
カカオ豆の通販サイトを見ながら、プリンは必死に考える。なんせ相手は有名レストランの副料理長。美味しい料理はおろかデザートも作れるし、舌もとびきり肥えているはずだ。チョコレート菓子を作るのが趣味のプリンは、自分にしか作れないものを作ろうとやる気になっていた。生チョコやガトーショコラも考えたけれど、ここはチョコレート一枚で勝負をかける。そしてそのチョコレートに「好き」と書いて渡すのだ。結果はどうあれ、サンジの前では素直になれないプリンの想いを、この機会に伝えるのだ。
サンジがその文字を見るところを妄想すると、ぼっと顔が熱くなる。一体どんな反応が返ってくるだろう。いつもの女生徒への反応と同じように、「俺も好きだよ」なんて軽く言ってきたりするだろうか。それとも、プリンの気持ちをちゃんと受け止めてくれるだろうか。後者だったらいいなと思い、プリンはカカオ豆を注文した。

そしてとうとうバレンタイン当日。プリンは放課後三年のサンジのクラスを覗いた。幸いサンジはまだクラスにいた。けれどオレンジの髪の女生徒や黒髪の女生徒――ふたりとも綺麗だ――から、チョコレートをもらっているようだった。
「えぇっ!? ナミさんもロビンちゃんも、俺にチョコくれるのかい!?」
「義理よ、義理。ルフィたちにもあげたわ」
「ふふ、義理でもそんなに喜んでくれるのね」
サンジは鼻血を出して喜んでいる。そんな姿を見て、プリンは急にサンジが遠い世界の人のように思えた。それもそうだ。サンジは三年で、自分は一年。サンジにも仲のいい女子はいるだろう。複雑な気持ちになったプリンは、その場を離れた。
バレンタインの雰囲気に浮かれていた自分がバカみたいだ。サンジは女好きで、スケベなところがあるから女子からはそんなに人気がないと思い込んでいた。でも実際はそうではなかった。少なくとも義理チョコをあげるくらいの仲の女子はいたのだ。
とぼとぼと昇降口に向かっていると、「プリンちゃん」と後ろから呼びかけられた。振り返れば、教室にいたはずのサンジが立っている。
「サ、サンジ……さん!?」
「プリンちゃん、さっき俺らの教室覗いてただろ? 何か用があったんじゃないかと思って、追いかけてきたんだ」
「誰に用があったんだい?」と優しく聞かれる。
「な、何を勘違いしてるのかわからねーが、お前じゃないことは確かだ!! サンジ!! ……さん」
――何言ってるの、私!!
はっと口を両手で覆う。サンジは気を悪くした様子はなく、ははと軽く笑った。
「……そうだよな、ごめん、詮索するような真似して」
じゃあ気をつけてね、とサンジは背を向けて去ろうとする。プリンは衝動的にその腕を握った。
「プリンちゃん?」
「こ、これ!!」
プリンは鞄から丁寧に包装したチョコレートを出して、サンジに突きつけた。受け取ったサンジは、「これって……」とじっとその箱を見る。
「ざ、材料が余ったから作ったんだ!! 誰にあげてもよかったけど、お前義理チョコしか貰ってなさそうで可哀想だから、やる!!」
「ありがとう、プリンちゃん」
サンジはとても嬉しそうに笑った。その顔がいつになく素敵で、プリンは一気に顔が熱くなり、卒倒しそうになるのを堪えた。
「……よかったら、俺と一緒に帰らないかい?」
堪えたと思えば願ってもいなかった提案をされた。サンジの供給過多に、今度こそプリンは卒倒した。「プリンちゃん」と支えられるのを感じて、この腕の中でなら死んでもいいとプリンは遠のく意識の中思った。