セブルスとサイコパス女教師
催眠豆をナイフの平たい部分で砕く。すると萎びた豆のどこにこれだけ汁が合ったのかと思うほどの汁が出てくる。大鍋にそれを入れればライラック色になった。成功だ。セブルスは教科書にメモし、次に薬を混ぜようとした。こないだは六回撹拝するごとに、一回時計回りをしてみたが、うまくいかなかった。セブルスはもう一回だけ撹拝してみることにした。七回時計と反対、一回時計回り、休み――七回時計と反対、一回時計回り――。みるみるうちに薬の色が薄くなっていく。セブルスは自然と顔がほころんだ。こんなに完璧な「生ける屍の水薬」を作ったのは初めてだ。セブルスは薬作りに夢中だったため、近くに誰かが来ていたことに気づかなかった。
「まあ……!」
突然隣から感嘆する声が聞こえ、セブルスは手を止める。その声の主は両手を口に当て、「こんな完璧な色は初めてだわ」とか「ああ早く飲んでみたい」だとか言っている。セブルスは自分に腹が立った。いくら薬作りに夢中だったとは言え、この人のことを考えなかったのは自分の不注意としか言えない。
彼女――ナマエ・ミョウジは魔法薬学の助手をしている。かなり変わった癖の持ち主で、「完璧な」魔法薬を飲みたがる。そのためセブルスがこうして薬を作っていると、どこからともなく現れるのだ。市販の薬には興味がなく――「鮮度」があるらしい――スラグホーンの作った魔法薬にもなぜか興味がない。なぜ自分の薬がいいのかを聞くと、「あなたの薬が好みだから」と答えにならない答えを返された。
「ねえ、飲んでもいい?」
ミョウジは目を輝かせながら言った。彼女は美人であり、普段はクールな振りをしているためセブルスは少しどきまぎしてしまう。
「……どうぞ」
言うやいなや彼女は薬を掬い、瓶へ少し移すと椅子に腰掛け、それを一口舐めた。用法用量を誤れば二度と目覚めない程の眠りをもたらす薬だが、魔法薬学に精通している彼女はさすがに心得ている。途端に眠りに就くミョウジの寝顔を見ながら、セブルスはこれからの授業をどうするのだろうと疑問に思った。
思えばミョウジとの付き合いは長い。入学してきた当初からリリーと同じく魔法薬学が得意だったセブルスは、すぐにミョウジに目をつけられた。初めて飲ませてくれと言われたときは驚いたものだ。何でも完璧な魔法薬を作る生徒全員の薬を飲んでいるらしく、リリーもまたミョウジに「飲ませて」と懇願されたらしい。しかしリリーの薬もセブルス以外の薬も彼女の舌に合わず、こうしてセブルスが魔法薬を作っているときに決まって現れるようになった。自分の薬を飲んだことはないためよくわからないが、薬にも味があるようだ。
このまま女性教師を眠らせておく訳にもいかないので、セブルスは覚醒薬を作ることにした。幸いスラグホーンから材料はいくらでも使っていいと言われている。三〇分ほどでできあがり、セブルスはそれを飲ませようと屈んだ。
「生ける屍の水薬」なので、体を揺すったり、大きな音を鳴らしても起きることはない。セブルスは覚醒薬をスプーンで掬い、彼女の口に押し込もうとした。しかしなかなか口が開かない。迷った末彼女の唇を下へ押した。思ったよりも柔らかな感触に驚く。ずっと触っているわけにも行かずスプーンを入れれば、ミョウジの瞼がゆっくりと開いた。
「……覚醒薬も作ってくれたの?」
ミョウジは嬉しそうに微笑んでいる。
「優しいのね、セブルス君は」
「いえ……」
セブルスは照れを感じ、うつむいた。「ありがとう」と礼を言われた後に、「そういえば」と彼女は思い出したように言った。
「最近セブルス君、リリーちゃんと一緒にいないわね」
セブルスは何も答えたくなかった。去年自分の発した言葉でリリーとの仲は決裂してしまっていた。ミョウジはセブルスの表情で察したらしく、「まあ、いろいろあるわよね」とその話を終わらせた。
「……セブルス君の薬、私一生飲んでたいわ。卒業したらホグワーツの魔法薬学教師にならない? 私が推薦するわ」
「いえ、僕は……」
デスイーターになるとは言いづらく、言葉を濁していると、ミョウジは「まあ、考えておいて」と立ち上がった。
「またあなたの薬が飲みたいわ。今日はありがとう、また授業で会いましょう」
ミョウジは部屋を出て行った。彼女の去り際はいつもあっさりしている。最初は呆然としたものだが、今ではもう慣れた。杖を振って道具を片付けながら、セブルスは教科書に七回とメモしておこうと思った。