04/23
カチャとドアが開き、夜神が皆のいる一室へ入って来た。相沢が早速挨拶する。「局長、お疲れ様です」
夜神は座りながら言った。
「思っていた通りだ、竜崎……各国首脳が勝手に話し合いLを……絶対偽物など使わず本物をテレビに出演させると言ってきた……ろくに協力しないくせに何の対策も考えようともせずキラの言いなりだ……」
「それが一番正しい選択です。キラに警察が協力するなど絶対あってはならないし、警察庁長官と私の命なら私の命を差し出すべきです。キラを捕まえると挑発してきたのは私ですから、正しい判断です」
「し…しかしこのままではL、いや竜崎が……」
松田が心配そうに言うが、竜崎はばっさりと言った。
「そんな事より……私は言われた通り出て行きますが、私が出て行ったところで、もしキラが私の事を何も知らない人物だったら……私をLだと信じてくれるかが心配です」
「た、確かに……」
「おい……」
「いえ、信じてもらえる努力はします……それでも信じてもらえず世界の警察幹部が犠牲になったら……とそう考えてしまうんです。結構難しいんですよ、自分がLだと証明する事って……その辺キラはどう考えているんでしょうね……まあ、まだ三日あります。そうならぬよう対策を考えましょう。私だって死にたくありません。それに……キラに殺されるよりキラに便乗した者に殺されるのはより不愉快です」
「えっ!?」
「ど、どういう意味だ、竜崎」
「キラがテレビ局に送りつけたビデオを観て思ったんですが……このキラは……キラに偽物の可能性が高い。いや、第二のキラと言うべきでしょう」
「第二のキラ!?」
皆が騒然となる中、竜崎は冷静に言った。
「はい、共犯者という事も考えましたが、私の中では考えにくい。この一本目のビデオを観てそう思いました。これはテレビでは放映されず、テレビ局員に自分がキラだと信じさせるためにテレビ局員だけが見る様作られたビデオです。封筒の消印は4月13日。次の日にはテレビ局に着き、その三日後テープの予告通り殺人が起きました」
「? 三日も前に予告されたことが事実となったから信じたわけですよね……」
「私はキラだと信じられませんでした」
「な…何故そう思うのかちゃんと話してくれ。私もこのビデオを観たがそんな考えは……」
竜崎はショートケーキの苺をフォークで刺しながら答える。
一番最後に残していた辺り、苺が好物なのだろうか。ナナは一瞬そうどうでもいいことを考えたが、すぐに気持ちを切り替えた。
「このビデオで予告殺人された者は、今までの犠牲者とは異質だとは感じませんでしたか?」
「これまでと比べて罪が軽すぎるという事でしょうか…?」
ナナが言うと、竜崎は頷いた。
「はい。しかしそれだけではありません。麻薬所持の芸能人など女性週刊誌なんかでしか大きく扱われなかった……実際調べた結果、4月13日時点では昼のワイドショーでしか報道されていなかった。おかしいと思いませんか? あの出目川と言うディレクターや局の人間は、ワイドショーネタも報道と捉え、疑うことはできなかったと考えられますが、明らかに異質です。本物のキラならそんな雑魚でやって見せる必要は全くないし、考えもしない。いつも裁いてきた凶悪犯を裁かずにおき、予告時間に裁く。その方がキラとしての信憑性もはるかに高い。つまり、第二のキラは自分をキラだと思わせるのは、局の人間がビデオを観る前に、本物のキラが殺す可能性のある犯罪者は予告に使えなかった。凶悪犯だとキラに先に殺される可能性が高く、結果時間が外れればキラだと信じてもらえません」
「しかし……局の者にわかりやすい者をわざと使ったとか……無理があるが……」
「でも、それだけじゃ絶対第二のキラだとは言い切れないな……」
「うむ。竜崎……第二のキラという可能性は一体どのくらい……?」
夜神の問いに、竜崎はさらりと答えた。
「今回は70%以上です」
「!?」
「大体やり方が気に入らない……キラらしくない……」
「らしくない……?」
「ビデオの作り方にしても酷すぎる。字が下手だとかだけではなく、音声も他の機器で再生された物を、ハンディカムの外部のマイクから取り、周囲の雑音が入ったと思われるところでは一度巻き戻してやり直している。普通なら録音機とビデオカメラを専用ケーブルで繋ぎ、外部カメラなど使わない。これは幼稚とかそれ以前の問題です。それをテレビ局に放映させたり警察幹部を盾にして従わせようとするやり方。騒動になり、世論の反感を買うことくらいわかるはずです。実際、罪のないアナウンサーなども殺された……こんな事、私がキラなら怒りますよ。今までキラは追う者は別として、罪のない者の犠牲は避け、自分の考えを徐々に世間に浸透させ、変えていくやり方をしていた。キラは恐怖による独裁は狙っていない」
「じ…じゃあ、この指紋ももしかしたら……」
相沢が小袋に入った切手の破片を見て呟く。
「ん? 指紋?」
「封筒の切手、ビデオテープなどからテレビ局の物以外の共通した指紋が出たんです」
「私達はいくらなんでもキラが指紋を残すわけないと……」
「もしくは偽装のための他人の指紋を考えたのですが……」
「そうですね、第二のキラ自身の指紋の可能性もありますよ。この場合指紋なんて付いていない方がいいに決まってます……が、第二のキラが存在するとすれば、キラよりはるかに頭が悪くいい加減です。ビデオなどが警察に押収される事すら考えてなかったかもしれません。まあ、日本だけに絞っても、すべての人間の指紋を採るのは不可能ですから、ここからの犯人の割り出しは難しいでしょう。捕まえてから照合するしかありません。それにしても……この指紋、小さいんですよね……」
「小さい?」
「子どもか小柄な女性……」
「そういえば前に竜崎と月がキラの犯人像を『裕福な子供』と言っていたな……」
「はい。それでもし、第二のキラだとして考えてみたんですが……キラ、第二のキラ、殺しの能力が全く同じではなかったとしても、片方が捕まればもう片方を捕まえるヒントは少なからず生まれると思うんです。私の考えでは第二のキラよりキラの方が巧妙です。私がキラなら……警察より早く第二のキラが誰なのか知ろうとする。そして自分に共鳴しているか計り、していれば利用するだけ利用し……最終的には警察より先に第二のキラを抹殺する……警察とキラの第二のキラ争奪戦……そしてこれはキラを捕まえるチャンスでもある」
皆の顔が引き締まる。竜崎は続けた。
「夜神さん、息子さんの都合がつくときに捜査協力を願ってもよろしいでしょうか?」
「それは、息子の疑いは完全に晴れたと受け取っていいのか?」
「いえ、疑いが晴れたとは言いませんが、息子さんの推理力は期待できる……いや、第二のキラ逮捕に息子さんが大いなる力になりうるかもしれないと考えたからです」
「……息子が『協力する』と言えば止める理由はない」
「私達も構いませんが……」
「息子さんは正義感と使命感できっと協力してくれます。ただし……今回のキラが偽物かもしれないという事は伏せておいてください。一連の連続殺人犯キラを追っていると言う形でお願いします」
「し…しかし、それじゃ一緒に捜査しにくいのでは?」
「そうだ……何のための捜査協力だか……」
「いえ、それを隠すのは彼に一本目のビデオを観てもらい、感想を聞くまでです。その後は彼を含め皆で第二のキラを追います。月くんの推理力には素晴らしいものがあります。このビデオを観たら『第二のキラだ』と言う推理をしてくれるかもしれません。今までの全ての資料に加え、このビデオを観てもらいどう判断するか観てみたい」
「しかし、『第二のキラ』と言うのは予告殺人された者がキラが裁くはずがない者だったと言う竜崎の推理でしかないですよね……」
松田が反論する。
「……それだけではありません。今まで私達が想定してきたキラは殺人に顔と名前が必要でした。しかしあの時、テレビ局にたまたま駆けつけた警官が殺された事、Lをテレビに出演させれば殺せる様な言い方をしている事から――第二のキラは顔だけで殺せるという事になります。私達の追ってきたキラとは、ここでも異なります」
「私達の認識が間違っていたとかキラの能力がアップしたとは?」
「だったら今まで名前がわからず裁けなかった大犯罪者を裁くはずです」
竜崎はコポコポと自分で紅茶を入れながら言う。
「要は月くんに捜査状況とビデオを観てもらい、『第二のキラの可能性がある』と推理したら――月くんの疑いはほぼ晴れるという事です」
「!? どういう事だ? 竜崎」
「キラなら捜査本部の指揮を執っているLは絶対殺したい。リンド・L・テイラーの時から変わらないはず。私は三日後テレビ出演し世間に顔が知られて死ぬ。そうすると容疑者は世間全体に広がります。キラならこんな格好の機会を棒にふる様な事はしないと思うんです」
「しかしこのままならLが死ぬ事は変わらないのでは……第二のキラの可能性を示しただけで何故疑いが晴れるんだ?」
「もしビデオの送り主が第二のキラなら止める方法はなくはない。第二のキラは少なからずキラの考えに共感している。本物のキラには従うと考えられます。ならばこちらで本物のキラからのメッセージを偽造すれば止められる可能性は高い。月くんがキラであれば『第二のキラである』と言う推理は私の死を見届けてからしかしないという事です」
なるほど、とナナが頷いていると、「なんか難しくて僕には……」と松田が呟いた。
「ではもし息子が第二のキラの推理をしなければ疑いが深まると言うのか」
「そうですよね、その考えは強引すぎる」
「いえ、その場合は5%未満のままですし、そのままこちらから『第二のキラの線で捜査している』と打ち明けて協力してもらいます。それと念の為今後はここでも偽の警察手帳の名前を使ってください。またワタリはここに出入りさせず外部に居る誰も知らない、私と繋がりを持つもう一人のLという事にします」
『わかりました、竜崎』
「もちろん佐藤さんも、月くんがここに出入りする間は自分の部屋に居てください」
「はい」
竜崎が夜神の方を向く。
「それでは月くんがOKでしたらできるだけ早く内密にここに来るよう伝えてください」
「わかった」
夜神は携帯を開いた。
部屋に戻ったナナはさくらTVをつけ、じっとテレビを見ていた。キラからのメッセージを放映するとすれば、さくらTVだろうからだ。そして19時になった途端――
『大変な事になりました。先日さくらTVにビデオを送り放映させたキラに対し、自分が本物だというもう一人のキラが現れました。警察庁にビデオが届き刑務所内の犯罪者8人もを午後2時から10分おきに心臓麻痺で殺害。そして各テレビ局に真のキラからのメッセージを放映させることを要求。警察庁はこのビデオに関しては放映する事を許可しています。こちらがキラなのか? これもキラなのか? まずこのキラから送られてきたビデオをご覧ください』
無駄にキラキラとした背景にKIRAと黒文字で浮かび上がった画面が出てきた。
内容はこうだ。第二のキラを寛大に受け止めるが、罪のない警察官の命を奪う行為は自分の意思に反する。協力する気持ちがあるならば、勝手な行動を慎む事。
誰が原稿を書いたのかは知らないが、ちゃんと間違いなくキラが書いたと思われる文章になっていた。あとは第二のキラからの返事を待つのみ。
(絶対に第二のキラを捕まえる……!)
宇生田の仇でもあり、自分にとってもその気持ちが大きくなっているのを自覚する。
しかし今のナナの任務は月に近付く事。まずは任務を全うしなければと、ナナは気持ちを奮い立たせた。
20160514
20180726